短歌
     
深夜




ほのぼのと朝日ふくんだカーテンを開けてさえずり地に跳ね返る

お布団の切り取り線に手を掛けて破る気力はまだまだ出ない

夜のうちに雨は上がって捨てられたビニール傘の錆びつき進む

眠れない人の朝から語れるは深夜ラジオの人生の知恵

サンダルを掠った枯葉は火曜日のごみに優しく寄り添っている

あかつきのヤカンのお湯はなんにしよぬくい日の色したレモネード

朝霧に風と葉っぱをとじこめてお湯にひたして作った紅茶 

スプーンに甘やかされて育ったし今も溶かせぬ砂糖があるの

呼ばれなきゃ話の出来ないやまびこは泣いて誰かの声を待ってる

急ぎつつ五分で済ますお化粧を朝日の中で笑う鉢花

流れてく空気ひとつに花添えて忘れられない気持ちにしよう








ベランダを開けて体を乗り出して呼ぶいつもより大きな声で いや別に怒ってないが搔き回わす正油とたまごが虎の模様だ お陽さまを粗末にしては休日が布団の上をゆっくり通過 お互いに古くなったと街路樹のけやき宇宙に近づいていく 蝶々がキャベツの上で蝶々に何か叫んでいる朝だった 水槽の金魚は青いビー玉を口でつついて「うみ」と囁く どんな日も楽しんでいい神さまと腕を絡めて行く大図書館 新しい花の名前を覚えようガーベラ、ガーベラ、愛らしい孫 ビルの芽が育ちわれわれ水分の運び手として出入りをする 座ってる机の広い引き出しがおおよそ君の心象風景 何事も解決できず玄関の金魚に留守を預けておいた ノドんとこ ねずみ返しが付いていて何でも飲み込むようになってる あの人が気付いてくれなきゃ空しいと可愛いだけが意味をなくす日 水たまりに街を飼ってるほら今もエサ食べに顔のぞかせる僕 空半分隠すキャップのつばの上いつも見えない何か乗ってた 青森のりんごジュースの瓶がいて冷蔵庫にも秋のぬくもり けさ一番きれいな薔薇の首つまむ鋏を持ってなくてよかった いつもより少し元気のない君にやけに似合った水玉模様 優しくて隣を歩きたいけれど両肩の鳥はさえずる ひまわりの太い首筋うなだれて元気づけてもかしぐばかりで 白黒の写真がカラーの錦絵にとってかわって明治の暗さ こころざし    じきたる人の隣にてなまくらを出す戸惑いはあり 生けるのに人は葉を断ち枝を断ち花の声なら多分知ってる し損ねた親孝行を乗せていくカーステレオに無限の演歌 ただそこにあると確かめ赤んぼは拾っちゃ投げて取っては捨てて 神の声神の意志なら仕方ない神のまにまに今日はサボろう 初恋は桜とフェンスに隔たれて貴女は次の生徒を迎える でんでん虫ツノ引っこめるその間にも向きを変えつつ登ってく壁
雨が降るだけで詩になるあの街の君の頭痛が消えますように あじさいの親切でしょうか梅雨に咲く傘の陰から見える高さは 外見やる今もふとんはベランダでのんべんだらりとしているのかな つき抜けたミルクティー派の君だけにレモンの事を聞いておきたい 「これまでに会ったすべての結ちゃんの中で最もほつれているね」 うだるよな夏に楽しいスプーンは入道雲をすくって冷やり 人魚の子お妃さまになりたくて鱗にガラスの破片をかざる ねぇめだか、あみちゃんだけがりょうくんの机運んでいいんだってさ 知って欲しい分けあいたいが破裂して放るビードロなるようになれ 音量のツマミをいつも握ってる貴方の言葉に傷つかぬよう 川越の五百羅漢ごひゃくらかんの生き様に混ざると覚え桜咲く頃 「この頃は墨絵もします」寡婦となりし友の葉書を泳ぐ出目金 世の中を千切ってあげたいくらい好きこの実を君にあの椅子を君に 鈍くさく可愛いがってたイモ虫は蝶になり手の届かぬところへ 南国の神がジュース飲むときにストローとして使うタワーだ 音よりも速い乗り物行きかって「シュッシュッポッポ」の言葉の魔力 約束があるのいそいで帰らなきゃ パタパタ跳ねて行くランドセル 散り桜泣いてください人間は都合以外で生きられないの 病気かなああ病気かな病気かな芭蕉が見てた天井がある ゆっくりと乾いた草の魂は遙かな雲になって流れる 3月のさくらの下で3階の教室からは見えないさよなら 花びらがはやる歩みを追い越して先に渡っていく交差点 どうせまた一人旅だしページ端折り目つければ頷くるるぶ 秋の日に樹ははらはらと口をききまた訪れる冬のだんまり 「難しい、ね」と微笑んでうつむいた闘う君ともう一人の君  たまたまに密度の高い三時間 過ごせば思い出 なくとも日常 青空の木立全てを傾がせて考えること止める大の字 冬風に尾を振りまわる風見鳥きれいな人を見つけたように 夜が来ることを恐れる野良猫が全速力でひなたで寝てる 華麗なる小袖も灰に色あせて羽に涙のしじみ蝶かな 太陽をめぐる地球の隅っこでカラオケマイクは公転してる ぼくの眼がとどく世界の果てにある計算式でえがける宇宙 流しから滑り落ちてくマグカップきょう東京の景色が割れる 古の町で見掛ける制服は僕達でないかつての僕達 目には目を歯には歯をとは古代の法 我が身に潜む原始の欲望 夏空を泳ぎ回って濁らせたのは誰だろう夕立が来る
夕暮れが原稿用紙に染みこんで、わたしは、主人公が好きです。 ああ今日はいつか迎える終焉を慰みに生くああその日かね 人なんかこわくないけど友だちがみなとんだからあたしもにげましょ ※雀 電線にとまるカラスに寄り添って空の青さの話がしたい コスモスが溢れだしてる一角の排水溝の一輪がさそう じきに咲く頑固な君がむらさきと言ってたピンクの白粉花が 日は沈み街灯がつき話つき此の時間まで君のとなりで 背伸びしてペンで手紙を書いている妥協するまで便箋が減る 西日射す50ページはオレンジで51ページは淡いブルー 「ふるさと」に「夕焼け小焼け」が重なって町境には笑いと別れ 石ころを石プレーヤーにかけますと石の記憶が再生できます マネキンはとっくに季節をものにして凛と澄まして空を眺める 標識が見えない速度で駆けだして気づいてみたら迷っていたい 知りたきは夜を迎える前の空20度くらいに見える青の名 胸満たし魂振るわす音楽を奏でる人まで遠すぎる距離 聞こえてる言葉は意味を紡がずにどぎつい模様の壁紙になる こんなにも人がいるのに人のにおい感じられない鼻がおかしい 誰ひとり伝わる人がいなくても彼女が選んだ言葉のしじま 冬雨に緊張で手が震えてた口を傘下にへの字に結んで 子どもだと知ってたあの子の前でだけ一人前のつもりしていた 子ども「ママかえりたいよ」と泣き出してつとくたびれて揺られる電車 「燃やしたいものがあるなら持っといで」青いキャップのおじさんが言う 見たものはあれだと皆が決めつける大人になったらカメラを買おう お待たせしました 残念ですが絵葉書になっていません千の眼の絵は 暇つぶすつもりで入った古本屋飛び出しほれほれ走れ三日月 傘のない人を優しく包みこむ改札むこう藤色の空 茫然と貴方と語り合うことができなくなった未来に立ってる 笑ってる顔が見たくて「欲しい」って言ったずるさを咎める街灯 自販機の下に落とした10円の様に乾いた月が出てくる 都会から田舎へ電車はしるとき車窓は商売やめて家の灯 しあわせは後ろに夜景手元には文庫うちには風呂にパソコン ひまわりがあっちこっちを向いて咲く わたしは誰と夕日を見れば ママドール薄皮まんじゅう手に提げて「また来っから」って母がつぶやく おそらくは色んな事ができるでしょう寂しいとさえ思わなければ 葉の散るをこころ乱して見る我を風がさらって大いに笑う
顔あげて春の夜道はカランコロン金星木星から下駄の音 傾向と対策を練る蛍火は二階の窓に囚われている 我が愛すべき偏食家、やめたまえ、シチューの中のれんこん探しは 同窓会メールの返事にもたついて皆美しい名前だと知る あさっては薬をもらう日だという母のカルテに独りの時間 失敗をしました。あなたが下すった万年筆も泣いております。 ていねいにモノが作れるひとでしたアイロンビーズは夜中に光る 闇を差し「あっいま星がながれた」とウソをつくのも子どもの心 雪積もり土地の境は失せ果ててふらふら迷い出る心かな 君の目に映るネオンに蓋をしてとろけるような夢を重ねた いたずらの代わりのお菓子わけあってモンスターにも恋心あり 光だけ見えてる人が触れ言った「勉強してくれたら嬉しいな」って 小指2つからめ約束したけれど片や図太く片やか細く いまさっき想いを綴っていた芯が折れてどっかに飛んでっちゃった 二次会でバカな話は加速して君がいるからついてきたのに その銀河みたいな耳で受けとめてチリやガスにも等しいことば 口も手も期待できない今からは耳で喋るよ耳を貸してね 太鼓橋たもとで待てばカタコトと向こう岸から昇り来る月 もう一度ハチマキ結んでくれないか両手で頭(こうべ)抱くだけでいい 薄雲に星を隠して朧なる月はわが身を持て余すのみ 部屋という部屋を集めて船に積み漕ぎ出したのが地球って星 いつまでもフワフワしてる君だからそろそろ被せたい綿帽子 雨音もズボラズボラという夜にしけった海苔を噛み千切ってる マグカップ底ちょっぴりのワインでも溺れる彼女の樽は大きい 悲しみの期限だったの甘いものだけで治ったわけじゃないから 頭へと入らず進む5、6行これはおそらく本が眠いの お姉ちゃん作ろうとしてダンボール切り抜いたけど兄がじゃまする 学ばなきゃならないことがノートから世の中になりなかなか苦しい 東風こちよ東風 香運ぶ力あるのなら桜の香りを苦しむ子に今 忍ぶ恋なら声高く詠めようが 恋の無きをばいかに詠むらん? 苦労したはずだ色紙のメッセージ読んでむずむず心がかゆい どの伝記をみても最後は沢山の漫画のキャラに囲まれ閉じる 深夜
君がこの世界に生きている事がさざ波のように寄せるしあわせ 濃いお茶をあおれば人の都合など考えもせぬ時計と目が合い  天井に光る大きな蓮があり丑三つ時の業を助ける 徹夜でも悪くないなと思わせてくれるあんたが好きよ音楽 高すぎる昼間の空が怖いから距離の見えない闇に鳴く虫 育つのに散々苦労をしてきたがその子はいまや私ではなく より高度だと信じてる欲満たすモノに囲まれあー腹へった 最終回泣くべき時に泣けぬ我なれども心はぐらりぐらりと 星空はゆっくり回っているらしい人差し指の針つきたてる 天の川なんてフォトショで加工して恋人好みに浅くしてやる スフィンクス百万回見た星空のベテルギウスに向かって吠える 脳のなか流れる何かを文字にしてこの世の引っかき傷になるやら あの世ではこれまで割ったお茶碗と残らず再会できるのでしょうか おさなごは草木に水をあてがって凍てつく夜にジョウロがごろり パジャマ着て朝が来るのを楽しみに寝てる子どもが心奥に居て 透明になるのは私の眼の中で星の光もそこにあるのに あの時もこんな寂しい夜でした手を伸ばさずにはいられぬくらい 和す木霊居てつぶやきの千々なるを流し散らして秋の谷川
その冴えぬ部屋生けとけ梅の枝上手くなったら飛んで行くから おっとりと足を踏み出す行く先は君に任そうゾウのはなさき 冬の夜に旅の風鈴たずね来て一晩のきを貸してください 妖怪のお茶会ポルターガイストがドラファミCAFEの音を奏でる この星は丸くて角も端も無い僕は絶対逃げ切ってみせる 客来ないギャラリーの中トボトボと歩き回って痩せこけた筆 ねじられた心を放つ銀色の曲を奏でよオルゴールの爪 北風が春咲く花に恋をしてうぉんうぉんと泣いていたとさ 満月がぺろり一枚はがれ落ち今夜も波に漂うくらげ




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